…この島だけは、来たくなかった。

これって、ダゴベールの本音だと思う。
最初、聞いたとき、
「なら、行かなきゃいいじゃん!?」って思わず突っ込みかけたんだけど、

ぃや、待って。
今なら、私、ダゴベールのこの言葉の本意、分かるような気がする。

ダグにとって、この島は、
たくさんの想い出…それも、楽しさより辛い出来事のほうが、
今も胸に傷痕となって残る、そんな場所。

それでも、彼にとっては、たった一つの居場所。心の故郷。

できることなら、思い出したくない。
過去から逃れるように、今をこうして生きて。

でも、彼にとっては、宝物の場所でもあるんだ。
宝物の居所。
ダゴベールのいう男の、全ての始まりの場所、全ての原点。

その先には、夕陽に照らし出される、どこまでも広い空と銀の海が。

ダグは、彼女に見せたかったと思うんだ。
自分という人間を。自分が生まれ育った、このカリブの島を。

彼女の前では、弱さも曝け出せる。

ありのままの自分、という存在を、素直に曝け出せる。

                
どうして?
なぜなら、彼は、ジェニファーという一人の女の子に魅入られているから。

ちょっぴり気が強くて、でも、本当は、ちょっぴり繊細で、
明るさの中にも、どこか陰を秘めているから。
ダグは、ジェニファーに、どこか自分と似たようなものを感じたのかな?

ダグは、ジェニファーを、とある場所へ連れて行く。

そこは、要塞の上の朽ちた礼拝堂。
幼きダグの秘密の隠れ家。
たくさんな想い出が詰まった、ダグにとっては、大切な場所。

ダグは、静かに語りだす。
少年時代の、暗く陰の差した記憶と、沈みゆく太陽を。

でも、彼が伝えたかったのは、黒、だけじゃない。

そこにキラキラ輝く夢の名残と、
確かに視た、夢の宝石と。


『ダグ。これだけは忘れるな。
   人が天から心を授かったのは、人を愛するためだ。』


                         
父が、愛する幼い息子に遺した、最期の言葉。
ぃや、遺した、じゃない、父が、愛する息子に託した、命の真実。

それを、ダグは、ジェニファーに伝えたかったんじゃないかと思う。

だから、あの島へ。だから、この島へ。

自分が生まれ育ったこの地に。
ジェニファーに、だけでなく、
ダグ自身が、自分自身と今一度、真正面から向き合うために。

勇気を出して、踏み入れたんじゃないかって。

でも、それはきっと、ダグ一人じゃできなかった。
その勇気を出せたのは、きっと、ジェニファーと回り逢ったから。
ジェニファーの存在が、勇気を与えてくれたから。

そう考えると、
冒頭の『…この島だけは、来たくなかった。』も、分かる気がするんだ。

きっと、その言葉以上に、深い意味が込められていると思うから。

今だから、感じる。
そんなことって、やっぱりあるんだね。

コメント

最新のコメント

日記内を検索